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第29話  

黒崎監督は、頭の中が爆発寸前だ。

 欲望にまみれた資本家どもが、自分の利益のために、また余計な口出しをしてきた。

 まだ卒業もしていない、演技経験もない大学3年生に、20億円規模の映画の主役をやらせろと言ったのだ。

 しかも、人気女優の谷雪を準主役にしろと。バカな!この話が世間に知れたら、谷雪のファンから猛烈なバッシングを受けるだろう。

 もし、その子に演技力があればまだよかった。きっと、一躍有名になれたかもしれなかった。

 しかし、もし演技力がなければ、この映画は失敗作に終わってしまっただろう。

 投資家は損をするだろうし、世間からは批判の嵐が吹き荒れる。その責任を負うのは、監督である自分だった。

 心の中では、井上海を罵倒していたが、顔には媚びへつらうような笑顔を浮かべて、こう言った。

 「井上社長、ご安心ください。必ず実現させます」

 仕方がない。この時代、金を持っている者が一番偉いのだ。

 彼もこの業界ではそれなりの地位にいるが、資本家を無視できるほどの力はまだなかった。

 それは、トップクラスの映画監督だけが持つ力だった。そのレベルの監督ともなれば、映画を撮りたいと一言言えば。

 多くの有名俳優、人気絶頂のスターたちでさえ、彼のもとに集まってくるのだった。

 多くの資本家が、札束を抱えて彼の元を訪れ、自分の金を使ってくれと頼み込んでくるのだった。

 なぜなら、そのレベルの監督が誰の金を使うかによって、誰がより多くの利益を得られるかが決まるからだった。

 金を儲けることができるだけでなく、会社の株価も上昇するのだった。

 資本家というのは、そういうものだ。利益をもたらしてくれる人間には、誰にでも丁寧に接するという。

 黒崎監督もまた、そのレベルを目指していた。

 彼は、いつまでもそんな大物監督になりたいと夢見ている。

 …

 翌日の昼のことだった。

 村上祐介から森岡翔に、夜の合コンは金葉ホテルで行うので、遅刻しないように早く来るように伝えた。

 森岡翔は中村薫にメッセージを送り、自分がホテルに着いた時は、一般客と同じように扱うように、従業員に伝えておくように頼んだ。

 彼はまだ、余計な騒ぎを起こしたくなかったのだ。

 午後の授業が終わると、森岡翔は早めに金葉ホテルへ向かい、会長室で待つことにした。

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